立体の認識

半年前にバラックでつくっていたステレオビュアーを写真展のために本格的に作り直した。
半日かけて作ったそれは,小学生の夏休みの工作のような出来になった。まるで進化していない。バラックIIといった感じ。

さて,このおもちゃを使ってまずはステレオペアではない,普通の日常風景を眺めてみる。
目と目の間隔は10インチに広がる。面白いことに遠近感が異常に強調される代わりにモノが小さく見える。
まるで自分がガリバーになったかのようだ。ちょうど本城直季さんのミニチュア写真を見ているような感じがしないでもない。

次に,この状態で輻輳角を変えてみる(寄り目,離れ目)。輻輳角を大きく(寄り目)にするとさらにモノは小さく見える。輻輳角がモノの大きさの判断にかなり大きく寄与していることが予想される結果だ。

3Dコンソーシアムの「3DC安全ガイドライン」(飛び出す絵や動画が人体に悪影響を及ぼさないようなコンテンツを作るための指針)を見てみると,人間が立体を認識する要素は以下の14があると述べられている。

(1)水晶体の焦点調節 (2)両目の輻輳 (3)両眼視差 (4)単眼運動視差 (5)物の大小 (6)物の高低 (7)物の重なり (8)きめの粗密 (9)形状 (10)明暗 (11)コントラスト (12)彩度 (13)色相 (14)鮮明度(ボケ具合というのはおそらくこの鮮明度に入るのだろう)。

この14項目の順番がどういう根拠なのか明記されていないのだが,およそ立体を認識する要因の強さの順に並んでいるのではないかと予想する。この中で特に(1)と(2)が網膜に写る画像情報そのものとは無関係なのが興味深い。
(1)の水晶体の焦点調整というのは,近くを見るときは水晶体を厚くすべく筋肉が緊張し,遠くを見るときは水晶体を薄くするために筋肉が弛緩するという,まさに筋肉の張りを監視するセンサーが前後を判断するということだろう。
片目をつむってもだいたいの位置関係を把握できるのは,無意識に働くこのセンサーのお陰なのかもれない。

(2)の両目の輻輳角は,寄り目の度合い,つまりこれも目の筋肉の緊張度合いを感じるセンサーが示す感覚の一つだ。ステレオペアで立体視をするとき経験することだが,平行法と交差法において,同じサイズのステレオペアでも,平行法で見た画像は大きくおおらかに感じられるのに対し,交差法で見た画像はミニチュア的に見える。
平行法で見るときは,目は左右それぞれのステレオペアの間隔に合わせて広がるので,輻輳角はかなり小さくなる。普段の生活で輻輳角が小さくなるののは,遠くにあるものを見つめる時だから,脳は経験的な類推により,そのステレオペアの写真は遠くにあるものだと判断をする。遠くにあるにも関わらずそれが与えられたサイズに見えるのなら,それは大きいものだと判断するに違いない。交差法で見るときはそれと逆のことが起こり,小さいものだと判断するのだろう。

普通のステレオビュアーではビュアーの間隔,輻輳角を変えることが出来ないので,撮影したステレオペアの左右の間隔(場合によっては上下,および回転角)を調整して(アラインメント)最適の飛び出し量になるように設定するもよう。

手作りのステレオビュアーの場合,輻輳角の調整は自由に出来るので,写真側のアライメントは固定して,ビュアーの調整でステレオ位置を調整出来るのだ。が,多くの人に見てもらう場合はいちいちビュアーを調整するのが面倒なので,やはり写真側でアライメントを調整すべきかと思っている。でかい写真をそのままの状態で左右に並べてステレオで見せるのはなかなか難しいのだと言うことが分かった。

それにしても,撮影のときのステレオベース(左右のレンズの間隔)も大事なパラメータであるのに,撮影後の鑑賞時にさえ,様々なパラメータがあり,なかなか最適に見せるのは難しい。両眼視差によるステレオペアの立体写真は非常にシンプルで,それゆえ長い歴史を持ち奥は深い。カチッとはまったときの立体感とリアルさは,まだまだ最新の3D動画技術に負けないのではないかと俺は思っているのだ。
もっと勉強しないとイカン。